<プログラム研究開発 平成14〜16年度>

深地下・海底環境利用による
CO2地殻化学固定・ハイドレート固定のための
基盤技術の開発


目的

本研究では、天然の環境条件を利用して大量のCO2を安定的に隔離するための基盤技術を開発するために、以下の2件の研究を実施した。

1. CO2ハイドレートによる天盤被覆層形成技術の研究

海底下にCO2を貯留する方法は、地表の生態系への影響が小さい方法として有望である。海底環境は高圧かつ低温であり、CO2が周辺水と化合してハイドレート状態となって安定に存在し得る環境である。よって、海底面もしくは海底面近傍の軟弱な堆積層にCO2を注入しハイ ドレートを生成させることにより天盤被覆層を形成させ、その下にCO2を安定的に貯留するための基盤技術について検討を行う。

2. 超苦鉄質岩・苦鉄質岩体を用いたCO2固定技術の研究

地下に存在する超苦鉄質岩及び苦鉄質岩体(かんらん岩、蛇紋岩、玄武岩等)は、CO2が溶解した地下水と反応して多量の陽イオン(Mg、Fe等)が溶出することが予想される。CO2がこれらの陽イオンと反応することにより、炭酸塩鉱物として固定化される可能性がある。本研究では、これらの岩体を用いてCO2を固定化するとともに、地層の間隙中に炭 酸塩鉱物を沈殿させてシーリング領域を形成する技術的可能性について検証する。


ハイドレートによる天盤被覆層形成技術の概念

ハイドレートによる天盤被覆層形成技術の概念
(海底温度=4℃、水深=500m、地熱勾配=0.03℃/mと仮定した場合
ハイドレート生成域地層の厚さD=171m)

成果

(1-1) CO2ハイドレートによる天盤被覆層形成技術の研究

模擬堆積層(間隙形状:幅200μm×深さ20μm)を用いて、CO2ハイドレートの誘導時間(CO2と水が接触してからハイドレートが生成するまでの時間)と継続流動時間(ハイドレート生成し てから注入できなくなるまでの時間)について測定を行った。その結果、誘導時間と継続流動時 間の合計(流動停止時間)は、温度5℃以下では約3時間であった。その際の破過圧は0.4MPa 以上であり、これは高さ300m の液体CO2の浮力に相当する圧力であった。 また、貯留層に注入された液体CO2が海底面に到達するまでの時間を解析した結果、水深500 mの堆積層(浸透率1darcy)において、深さ171〜271mの範囲から1万トン/day の注入速度 でCO2の注入を行った場合でも、海底面への到達時間は300 時間以上であった。これはCO2ハイドレートによる流動停止時間(3時間)と比較すると充分に長い時間であった。以上のことから、海底堆積層中に注入されたCO2は海底面に到達するまでの間にハイドレート化し、天盤被覆層が形成できる可能性が充分にあることがわかった。また、形成される天盤のシール層には高いシール性能が期待できるものと判断された。また、国内の海底堆積層でのCO2の貯留可能量の総量は約2兆トンと評価された。なお、今後は経済性や安全性についても検討し、より現実的な貯留可能量を評価していくことが必要である。

(1-2) CO2ハイドレート天盤被覆層のガス封入性能と安定性の評価研究

ハイドレート天盤層の温度・圧力を変化させて浸透率を測定することによりCO2ハイドレート天盤層の安定性を調査した。 これらの実験の結果、液体CO2のハイドレート天盤層浸透率は水分量によって大きく影響を受けること、温度・圧力については比較的影響を受けないことが明らかとなった。 また、隔離技術開発の底辺をサポートするため、地下帯水層から深海底表層付近までの広い温度・圧力条件においてCO2溶解水の熱物性値を調査した。また、純水を溶媒として用いた場合のCO2溶解水の密度の測定を行った。

(2) 超苦鉄質岩・苦鉄質岩体を用いたCO2固定技術の研究

蛇紋岩体を中心にナチュラルアナログ研究を行い、CO2の固定化プロセスや地化学的環境条件について検討を行った。 その結果、蛇紋岩の割れ目、崖錐、段丘、地すべり崩積土の間隙中にCa 炭酸塩、含水Mg 炭 酸塩等が沈殿していることがわかった。炭酸塩鉱物の生成温度は、酸素の同位体比(δ18O)よ り、常温(20℃以下)と推定された。また、生成年代はを14C の濃度により推定した結果、現世のものも存在することから、炭酸塩鉱物は常温で比較的早く生成する可能性があることがわかった。Ca 炭酸塩と含水Mg 炭酸塩が共存する例は乏しかった。この原因として、Mg は低結晶度蛇紋石によって補足されやすいことが考えられる。 なお、孔隙率を2%、孔隙への貯留率を1.5%、CO2の密度を500kg/m3(超臨界状態)と仮定 した場合、国内の蛇紋岩体によるCO2の貯留可能量は約7億トンと推定された。(本項目は、平成15年度をもって、プログラム研究「蛇紋岩体の地化学環境を利用した原位置試験によるCO2地中鉱物固定のための基盤技術の開発」として独立したテーマとなりました。)


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