ALPS国際シンポジウム2020-脱炭素に向けた長期戦略-
2019年度ALPS国際シンポジウムを下記のように開催いたしました。官公庁、大学、研究機関、企業、その他団体等から318名の方に参加いただきました。
RITEでは、経済産業省の委託事業として「地球温暖化対策技術の分析・評価に関する国際連携事業」(通称ALPS: ALternative Pathways toward Sustainable development and climate stabilization)を実施しています。この研究事業では、グリーン成長に資する国際枠組み、国際戦略立案に資する研究を進めており、また長期の気候変動リスクへの対応についても検討を行ってきています。更には、昨今のIoTの進展や、それに伴うシェアリングエコノミーなどは、エネルギー需要サイドの革新につながり、効用(サービス需要)を下げずにエネルギー需要量を低減できる大きな社会的な変化の可能性も含んでおり、そのような将来的な低需要シナリオの検討などにも取り組んできています。そして、地球温暖化問題研究で世界的に著名なオーストリアの国際応用システム分析研究所(IIASA: International Institute for Applied Systems Analysis)、米国の未来資源研究所(RFF: Resources for the Future)、国際エネルギー機関(IEA)をはじめ、世界の研究機関とも協力しながら研究を進めています。
2015年12月の気候変動枠組条約の第21回締約国会議(COP21)においてパリ協定が合意され、2016年11月に発効しました。世界の大多数の国が2020年以降の自国の温室効果ガス排出削減目標等をNationally Determined Contributions (NDCs)として提出し、世界のほぼすべての国が排出削減に取り組む新たな国際枠組みができました。
また、国際的に気候変動対策の強化を求める動きが強まってきており、早期の脱炭素化社会実現を求める機運も高まってきています。2019年12月のCOP25でも多方面からその要請が強く出されました。2019年6月には、我が国も長期的な温室効果ガス低排出型の発展を目指した「長期低排出発展戦略」を国連に提出し、社会実装可能なコストを実現し、非連続なイノベーションを創出するため、「革新的環境イノベーション戦略」も2020年1月に公表されました。2050年以降の長期にわたる温暖化対策やグリーン成長に関する議論が国内外で活発になってきています。
このたび、様々な気候変動のリスクがあるなか、「脱炭素社会」実現に向けた国内外の要請を鑑みて、「脱炭素に向けた長期戦略」をテーマとし、また本研究事業の成果報告会を兼ねて2019年度ALPS国際シンポジウムを開催しました。本シンポジウムでは、TWI2050、アジア工科大学、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、メリーランド大学、RFF-CMCC 欧州経済環境研究所(EIEE)から、この分野に造詣の深い海外の著名な専門家をお招きし、ご講演頂くとともに、先進的に温暖化対策に取り組んでいる東京電力パワーグリッド(株)、東京ガス(株)、JFEスチール(株)の方にもご参加頂き、将来的な低炭素、更には脱炭素化に向けた取り組み・展望をパネル形式で紹介して頂きました。地球温暖化を抑制し、長期的には脱炭素化を目指し、持続可能な社会を実現するために必要な取り組みについて、幅広い方々が最新の研究成果や企業の取り組みをもとに深く考えられる機会になったと考えます。
開催概要
- 日 時
- 2020年2月13日(木) 10:00~17:40
- 開催場所
- 虎ノ門ヒルズフォーラム(東京)
- 主 催
- 公益財団法人地球環境産業技術研究機構
- 共 催
- 経済産業省
プログラム
各講演者による発表資料が、ダウンロード(PDFファイル)できます。プログラム内の発表標題をクリックして、入手下さい。
10:00 | 開会挨拶 茅 陽一, RITE理事長 |
10:05 | 来賓挨拶 矢作 友良, 経済産業省 大臣官房審議官(環境問題担当) |
10:10 |
"脱炭素社会の姿と実現へのシナリオ"(pdfファイル2,897KB) 山地 憲治, RITE副理事長・研究所長 |
〔発表主旨:脱炭素社会(Carbon Neutrality)を目指す国内外の動向として、低エネルギー需要(LED)シナリオ、革新的環境イノベーション戦略、ムーンショット型プログラムなどを紹介。Society5.0の進展と共に、エネルギーと情報の統合、電化とデジタル化による革命的エネルギー節約、クリーンで効率的な2次エネルギーの利用等を進めることにより、CO2正味ゼロ排出エネルギーシステムの構築の可能性がある。〕 |
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10:40 |
"今世紀中葉までの脱炭素の達成に向けた戦略と複数のコベネフィット"(pdfファイル6,686KB) Nebojsa Nakicenovic, TWI2050 ディレクター |
〔発表主旨:SDGsは極めて重要なアジェンダであり、脱炭素戦略はSDGsの多くにコベネフィットをもたらす。TWI2050は、SDGsを6つの主要な転換にまとめ、分析し、最新ではデジタル革命に焦点。情報技術の圧倒的な普及スピードにより、エンドユーザーの革新的なイノベーション、オーナーシップからユーザーシップへのシフト、シェアリングエコノミー、接続化などがみえてくる。〕 |
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11:15 |
"急成長する国々:エネルギー需要、技術、社会変化"(pdfファイル4,730KB) Joyashree Roy, アジア工科大学 バンガバンドゥ チェアー・プロフェッサー |
〔発表主旨:アジアの発展途上国、特に、インド、バングラディシュを対象に、各国の技術・社会的変化がエネルギー需要に及ぼす影響を研究。アジアの国々は、発展に応じて化石燃料を使用していくと見込まれるが、省エネを進めつつ、経済成長する姿を示す必要がある。冷房需要の増大に対応し、信頼性の高い電力供給が必要。どのような飛躍的な技術を提供できるか、インフラ、人のスキル活用を考える必要あり。〕 |
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11:50 | 休憩 |
13:15 |
【パネル討論】"低炭素、そして脱炭素社会に向けた産業界の取り組み・ビジョン" ◆モデレーター:秋元 圭吾, RITE ◆パネリスト: ・岡本 浩, 東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 "脱炭素に社会の実現に向けたエネルギーのビジョン"(pdfファイル2,173KB) 〔発表主旨:脱炭素化社会に向け望ましい日本のエネルギーポートフォリオとはどのようなものか。再エネの大量導入、電化の進展といった重要項目を反映した日本のエネルギー産業の将来像と、それを実現するための基盤となる電力事業のビジョンを説明〕 ・穴水 孝, 東京ガス株式会社 代表取締役副社長執行役員 "Compass2030と脱炭素社会に向けた取り組み"(pdfファイル4,529KB) 〔発表主旨:東京ガスは、LNG導入から50周年を迎えた2019年11月、次の半世紀を見据え不確実な時代に進むべき方角を示す羅針盤として、東京ガスグループ経営ビジョン「Compass2030」を策定。事業の柱である天然ガスが果たす役割を更に拡大させつつ、「CO2ネット・ゼロ」をリード、「価値共創」のエコシステム構築、LNGバリューチェーンの変革、の3つの挑戦を掲げる。Compass2030の概要と脱炭素社会実現に向けた具体的な取り組みについて紹介。〕 ・手塚 宏之, JFEスチール株式会社 専門主監(地球環境) "日本鉄鋼連盟の地球温暖化対策ビジョン「ゼロカーボンスチールへの挑戦」"(pdfファイル2,736KB) 〔発表主旨:脱炭素化が最も困難な産業の一つである鉄鋼産業が、パリ協定の長期戦略として、いかにして脱炭素化を目指していくかについて、日本鉄鋼連盟が18年11月に発表された「日本鉄鋼連盟長期温暖化対策ビジョン~ゼロカーボンスチールへの挑戦」の概要を紹介し、その具体的な取り組みについて説明。〕 |
14:55 | 休憩 |
15:15 |
"エネルギー移行に関する“3つの領域”経済:3つの柱のアプローチ、英国の経験、そしてグローバルな含意"(pdfファイル3,332KB) Michael Grubb, ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 教授 |
〔発表主旨:エネルギー移行の経済学に関して紹介。エネルギーイノベーション及び移行のダイナミクス関しては、技術コストは時間と投資と共に低下し、主な部門移行は典型的にはロジスティック代替(Sカーブ)を通じて自己強化された誘導型イノベーションと共に発生。エネルギー移行の意思決定における3つの領域とは、①満足行動(Satisficing behavior)、②最適化行動(Optimizing behavior)、③移行行動(Transforming behavior)を指し、各領域の特徴及び基盤となる経済理論が異なる。〕 |
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15:50 |
"米国における都市、州、およびビジネスの気候リーダーシップが意味するもの"(pdfファイル3,119KB) Leon Clarke, メリーランド大学 教授 |
〔発表主旨:国家主導の取り組みの他に、都市や地域、ビジネスなど非国家主体で緩和の取り組みを進める動きが見られる。米では温暖化対策の取り組みにプレッジする都市や州が増えており、アメリカのGDPの68%、人口の65%、排出の半分以上をカバー。それらを基に排出削減について分析した結果、2030年時点でNDCとほぼ整合した削減が可能。2050年ゼロ排出に向かっていくためには、連邦政府が関与していくことも必要。〕 |
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16:25 |
"ネットゼロへの道を拓く:エネルギー転換に向けた研究・革新(R&I)経路"(pdfファイル2,728KB) Elena Verdolini, RFF-CMCC 欧州経済環境研究所(EIEE) 主任研究員 |
〔発表主旨:ゼロ炭素目標に向けてはR&Iが重要。新規技術のみでなく、新しい移動需要パターンや都市及び社会的課題、脱炭素の経済的影響などに対してもR&Iが必要。低炭素技術に対する最適R&I投資分析では、1.5℃目標では2℃目標より早期の投資開始が必要となった。EUグリーンディールの実現には、特定の地域を置き去りにすることなく脱炭素していかねばならず、各国における異なる影響を理解し分析する必要がある。〕 |
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17:00 |
"脱炭素化社会に向けたエネルギーシステムの変革とイノベーションの役割"(pdfファイル3,343KB) 秋元 圭吾, RITEシステム研究グループ グループリーダー |
〔発表主旨:エクセルギー効率を見ると最終的なサービスとしては一次エネルギーの4~5%程度しか活用できておらず、エネルギー需要サイドにおいて効率改善余地が大きい。AIやICTの活用により運輸部門でのCASEの進展の他、出版、アパレル、食品などの分野でエネルギー消費やGHG排出の大幅低減の可能性がある。完全自動動運転車シェアカーなど需要分野のモデルを組み込んだモデルを用いて、エネルギー供給サイドの対策を含めて、脱炭素化実現に向けた総合的な対策の評価を紹介。〕 |
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17:35 | 閉会挨拶 本庄 孝志, RITE専務理事 |
(司会)松本 真由美 | |
お問合わせ
〒619-0292 京都府木津川市木津川台9-2
(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE) システム研究グループ
TEL: 0774-75-2304 FAX: 0774-75-2317
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