CCSの安全性
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Q貯留された二酸化炭素(CO₂)は漏れないのですか?
A1970年代より世界各地でCO2の貯留が行われてきましたが、これまでに地表や海底から漏れ出した事例はありません。
これは二酸化炭素(CO2)が漏れる可能性のある原因に対して十分に調査、検討し、安全な設備を作って適切に運用しているためです(※1)。また、圧入中、圧入後に地層の圧力や温度を測ったり、CO2が分布する範囲を検査したりするなどして、異常がないかを確認します(※2)。(解説)
(※1) CO2が漏れる可能性がある状況や原因を図1に示します。
図1 潜在的CO2漏洩経路(IPCC(2005)をベースにしたRITE編(2006)の図に加筆)
(※2)- ・漏洩などCO2が予想外の動きをすると、通常とは異なる圧力や温度の変化が起きます。
- ・人工的な振動で地下の状態を調べる技術(弾性波探査法)などにより地層中のCO2の位置と拡がりを確認できます。
参考文献- IPCC (2005). IPCC Special Report on Carbon Dioxide Capture and Storage. Prepared by Working Group III of the Intergovernmental Panel on Climate Change. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 442 pp.
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/03/srccs_wholereport-1.pdf - RITE編 (2006). 図解 CO2貯留テクノロジー.工業調査会.
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Q貯留された二酸化炭素(CO₂)が漏れたらどうなりますか?
A二酸化炭素(CO2)は風や海の流れで拡散されるため、漏出点の近傍を除けばCO2が高濃度になることはありません(※1, ※2)。万が一、漏れた場合には、圧入を中止して地層の圧力を下げたり、漏洩箇所の補修をしたりするなどの対策を取ります。
(解説)
(※1) 弊機構も参加した英国のQICS(キックス)という実験では、37日間にわたり4.2トンのCO2が海底から海中に放出されました。この実験では、CO2の放出により放出点付近の狭い範囲で細菌や線虫など微小な生物群の組成に一時的な変化が見られましたが、CO2の放出をやめれば数日から数週間で元の状態に戻っていくことが示されました(Blackford et al., 2014; Kita et al., 2015; Watanabe et al., 2015)。
(※2) 自然現象で海底からCO2が出ているところでも漏出点から離れると生物への影響は見られません(図2)。
図2 浅い海域で火山性CO2が自然に放出されている地点(Aiuppa et al., 2021)
放出点周辺の生物の種類組成には変化が見られますが、その影響は離れるにつれて見られなくなります。
参考文献- Aiuppa, A., Hall-Spencer, J. M., Milazzo, M., Turco, G., Caliro, S., & Di Napoli, R. (2021). Volcanic CO2 seep geochemistry and use in understanding ocean acidification. Biogeochemistry.
https://doi.org/10.1007/s10533-020-00737-9 - Blackford, J. etal. (2014). Detection and impacts of leakage from sub-seafloor deep geological carbon dioxide storage. Nature climate change.
https://doi.org/10.1038/nclimate2381 - Kita, J., Stahl, H., Hayashi, M., Green, T., Watanabe, Y., & Widdicombe, S. (2015). Benthic megafauna and CO2 bubble dynamics observed by underwater photography during a controlled sub-seabed release of CO2. International Journal of Greenhouse Gas Control, 38, 202-209. https://doi.org/10.1016/j.ijggc.2014.11.012
- Watanabe, Y., Tait, K., Gregory, S., Hayashi, M., Shimamoto, A., Taylor, P., ... & Kita, J. (2015). Response of the ammonia oxidation activity of microorganisms in surface sediment to a controlled sub-seabed release of CO2. International Journal of Greenhouse Gas Control, 38, 162-170.
https://doi.org/10.1016/j.ijggc.2014.11.013
- Aiuppa, A., Hall-Spencer, J. M., Milazzo, M., Turco, G., Caliro, S., & Di Napoli, R. (2021). Volcanic CO2 seep geochemistry and use in understanding ocean acidification. Biogeochemistry.
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Q地震が起きても大丈夫なのですか?
A地震国の日本でも新潟県や秋田県に石油や天然ガスが溜まっています。地震が起きても、石油や天然ガスは漏れてはいません。CO2貯留は石油や天然ガスと同じような地下深くの地層で行われるので、地震が起きても大丈夫と考えられます。国内では長岡(新潟県)で1万トン、苫小牧(北海道)で30万トンの二酸化炭素(CO2)を地中に貯留する実証試験を行っています(棚瀬ほか, 2008; 日本CCS調査株式会社, 2018)。長岡では20年経過してもCO2の貯留状態に変化はありませんでした(薛と中島, 2024)。
参考文献
- 棚瀬大爾,薛自求,嘉納康二. (2008). 長岡における二酸化炭素圧入実証試験. Journal of MMIJ.
https://doi.org/10.2473/journalofmmij.124.50 - 日本CCS調査株式会社. (2018). 北海道胆振東部地震のCO2貯留層への影響等に関する検討報告書
- 薛自求, 中島崇裕. (2024). CO2地中貯留における誘発地震リスクマネジメントについて. 石油技術協会誌, 89(2), 141-151
- 棚瀬大爾,薛自求,嘉納康二. (2008). 長岡における二酸化炭素圧入実証試験. Journal of MMIJ.
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Q二酸化炭素(CO₂)を圧入することで地震が発生しませんか?
A現在進行中のCCS事業をみても大きな地震の報告はありません(※1)。事前の調査で地震を引き起こしそうな活断層から離れた地層を選びます。そして、地層に大きな力が加わらないよう、地層の圧力と温度を監視しながらCO2を貯留します(※2)。人が感じないくらいの微小な振動が起きても、大きな地震は発生しないと考えられています(※3)。
(解説)
(※1) これまでに、カナダのワイバーン、アメリカのディケーターやアルジェリアのインサラーなどの場所では、CO2の地中への圧入時にマグニチュード2以下の微小振動(人が感じることができない微小地震)が確認されていますが(Foulger et al., 2018; HiQuake)、CCSのCO2圧入に関係する有感地震はありません(IEA, 2022)。
(※2) 貯留層を選定する際には、周辺の断層の調査を含む誘発地震に関する安全性の調査を行います。安全に二酸化炭素(CO2)を圧入できる圧力、圧入率、温度などの範囲が調べられ、その範囲内で圧入が進められます。
(※3) 図1のように断層の規模が地震のマグニチュードと関係しています。大きな断層は図に記されているように弾性波探査という地下を調査する手法で検出できます。検出できないくらい小さな断層は大きな地震を起こしません。図1 断層の規模と地震のマグニチュードとの対応関係(薛と中島,2024の図を改編)
参考文献- Foulger, G. R., Wilson, M. P., Gluyas, J. G., Julian, B. R., & Davies, R. J. (2018). Global review of human-induced earthquakes.
https://doi.org/10.1016/j.earscirev.2017.07.008 - HiQuake (The Human-Induced Earthquake Database).
https://inducedearthquakes.org/ - IEA (2022). CO2 Storage Resources and their Development An IEA CCUS Handbook.
https://www.iea.org/reports/co2-storage-resources-and-their-development -
薛自求, 中島崇裕. (2024). CO2地中貯留における誘発地震リスクマネジメントについて. 石油技術協会誌, 89(2), 141-151.
- Foulger, G. R., Wilson, M. P., Gluyas, J. G., Julian, B. R., & Davies, R. J. (2018). Global review of human-induced earthquakes.