1. 転写制御機構
転写因子は遺伝子のプロモーター領域に結合して、RNAポリメラーゼによるmRNAの合成(転写)を活性化(転写活性化因子)、または、抑制(転写抑制因子)することにより、遺伝子の発現量を調節します。
様々な種類の転写因子が、個別のDNA部位を認識し、個別の機構により活性調節を受けますが、制御モジュール(活性調節シグナル―転写因子―標的遺伝子)間の重複や相互作用により、複雑なネットワークが形成されています。転写因子は細胞内外の様々な環境シグナルのセンサーとして働き、その情報は遺伝子発現制御ネットワークを通して統合され、細胞の環境適応応答に反映されると考えられます。
コリネ型細菌のゲノム上には、150個程度の転写因子がコードされていることが推定されています。当研究グループでは、主に糖代謝制御、酸素欠乏応答、ストレス応答の観点から、物質代謝に関わる様々な遺伝子の転写因子を同定し、それらの機能を明らかにしています。
シグマ(σ)因子はαββ'ωサブユニットから成るコア酵素と共にRNAポリメラーゼのホロ酵素を形成します。シグマ因子はRNAポリメラーゼのプロモーターの認識、結合の役割を担っており、コア酵素が遺伝子を鋳型に転写を行います。バクテリアは複数のシグマ因子を有しており、それぞれ配列の異なるプロモーターへ結合し、そこから下流の転写を促進します。バクテリアはシグマ因子を切り替えることで転写する遺伝子を切り替え環境変化に適応しています。
コリネ型細菌のゲノム上には7つのシグマ因子がコードされています。ハウスキーピング遺伝子の転写を行い生育に必須である主要シグマ因子SigA、SigAと高い相同性を持ちながらも生育には必須ではないグループ2シグマ因子SigB、環境ストレス応答に関わるextracytoplasmic function (ECF)シグマ因子ファミリーに属するSigC, D, E, H, Mです。
当研究グループでは、各シグマ因子について認識プロモーター配列およびそのプロモーター支配下にある遺伝子(レギュロン)を同定することで、各シグマ因子がどのような細胞内外の環境変化への適応に重要か明らかにしています。
2. 転写後制御機構
細胞の代謝能力は代謝を担う酵素の活性と濃度により決まります。細胞内の酵素量はゲノムからの発現と分解のバランスにより決まるので、より効率的な代謝能を付与するためには、遺伝子発現と蛋白質分解の制御機構について理解を深めることが重要です。ゲノムにコードされている遺伝子はmRNAへと転写されたのち、蛋白質へと翻訳され発現されます。遺伝子の発現は、転写因子による転写開始段階での発現制御に加え、mRNAへと転写された後でも様々な制御を受けることが知られています。当研究グループでは、遺伝子の転写後制御機構について解析を進めています。