コリネ型細菌、Corynebacterim glutamicumはL-グルタミン酸を培地中に排出する微生物として1950年代に日本で分離されました。コリネ型細菌はミコール酸含有放線菌群に属し、胞子形成能を持たない、非運動性、好気性のグラム陽性細菌です。現在、全世界で200万トン以上のL-グルタミン酸ナトリウムがうま味成分としてコリネ型細菌を用いた発酵法により製造されています。
コリネ型細菌の発見から約60年が経過していますが、有用物質の発酵生産における本菌の産業的価値はゆるぎないものとなっています。現在コリネ型細菌は、グルタミン酸以外にも、リジンなどのアミノ酸や、核酸、有機酸といった様々な有用化合物の物質生産へと応用されています。
コリネ型細菌は普通に増殖しているときはグルタミン酸をまったく生産しませんが、ビオチン欠乏、ペニシリンや界面活性剤の添加など細胞表層構造の変化を誘起させることでグルタミン酸を生産することが知られています。当研究グループでは、コリネ型細菌が増殖できない酸素抑制条件において、細胞複製をしないものの、代謝活性が高く維持されているというユニークな特徴を見出しました。この発見は、当研究グループが開発した「RITE Bioprocess(増殖非依存型バイオプロセス)」へと応用されています。当研究グループではコリネ型細菌C. glutamicum R株を用いてエタノール、ブタノールなどのバイオ燃料生産や有機酸、芳香族化合物、アミノ酸といったグリーン化学品の生産研究を行っています。
当研究グループではC. glutamicum R株のゲノム解析を独自に行いました。その結果、本菌は3.3 Mbpの染色体をもち、3052のORF (タンパク質に翻訳される可能性がある塩基配列) が予測されました。そのうち、コリネバクテリウム属間でのゲノム比較によりコアとなる遺伝子の他、転写因子、分泌タンパク質、糖代謝、二成分制御システムの遺伝子群において特徴が得られました。
<C. glutamicumの電顕写真とゲノムマップ>