プラスチックは軽量、安価で耐久性にも優れ、我々の生活に不可欠な高分子材料です。しかし、化学的に安定であるため自然環境で分解されにくい問題があります。
一般的にプラスチックなどの高分子の生分解性と耐久性・強靭性は典型的なトレードオフの関係にあります。すなわち生分解性ポリマーは自然環境下で劣化が進みやすいため耐久性に劣り、機械特性も十分ではないため限定された用途に限られます。逆に汎用プラスチックは、耐久性・強靭性に優れていますが生分解性に劣ります。
もしも耐久性・強靭性と生分解性を両立させることができれば、環境低負荷型のプラスチックとして幅広い用途に使用でき、資源循環も可能となります。特に海洋環境に散逸したプラスチックは回収が困難であり、生態系に悪影響を及ぼします。生分解のタイミングとスピードをコントロールできるプラスチック(マルチロック型バイオポリマー)の開発は資源循環の観点から極めて重要です。
NEDO ムーンショット型研究開発プロジェクト「非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発」では、プラスチックのトレードオフ関係を打破するため、プラスチックの分解に「マルチロック機構」を導入します。すなわち分解の際に、光、熱、酸素、水、酵素、微生物、触媒などの複数の刺激を同時に必要とすることで、使用時には分解を抑えて耐久性・強靭性を保って劣化を防ぎ、海洋環境中に誤って拡散した際にはマルチロックが外れて高速なオンデマンド分解を実現可能とします。本プロジェクトにおいて実用化を目指す製品は、非可食性バイオマスを原料として得られるプラスチック、タイヤ、繊維、漁網や釣具です。産学官の連携によってマルチロック型生分解性プラスチックの材料設計指針を確立します。この中で、当研究グループは、非可食性バイオマス原料からこれら製品の原料となる各種モノマーのバイオ生産と、マルチロック機構に活用できるプラスチック分解酵素の高機能化について研究開発を推進中です。(本プロジェクトのホームページはこちら)
<マルチロック型生分解性プラスチック開発による資源循環の実現イメージ>