プロジェクト

水素分離膜を用いたメチルシクロヘキサンからの脱水素プロセスの開発

事業名称: 水素利用等先導研究開発事業/エネルギーキャリアシステム調査・研究/水素分離膜を用いた脱水素
委託元: NEDO
再委託先: 工学院大学(2016年度)
事業期間: 2014年4月1日~2019年6月28日

 水素社会を構築するためには、水素を効率的に輸送・貯蔵する技術の開発が不可欠です。その有望な方法として提案されているのが、「エネルギーキャリア」というコンセプトです。水素をMCHやアンモニアなど効率的に輸送・貯蔵できる形態に変換し、それを輸送・貯蔵した後に、水素を必要とする場所・時間で取り出して使用します。(図1)

 

                         図1. エネルギーキャリアコンセプト

 

 水素をメチルシクロヘキサン(MCH)やアンモニアに変換する技術はすでに量産技術として確立されていますが、水素を取り出す技術がこれまで確立されていませんでした。最近になって優れた性能を有する脱水素触媒は開発されたものの、残念ながら燃料電池に供する高純度水素を効率的に製造する技術はまだ確立されていません。RITEでは、商業施設やオフィスビルなど中小規模の需要家を対象にMCHから高純度水素を効率的・安定的に取り出すコンパクトな水素製造装置の開発・実用化を目的として、対向拡散CVD法で作製したシリカ膜を用いたメンブレンリアクター(膜反応器)の研究開発を進めています。メンブレンリアクターとは、平衡反応中に、反応生成物(あるいは不純物)を選択的に透過させることができる膜を介在させると、反応が目的物質生成物側に促進され、転化率が向上するという原理を利用したものです。反応雰囲気中に分離膜を介在させるため、高温、高圧に対しての耐性が求められ、高性能な無機膜が必要となります。このようなメンブレンリアクターによる、MCHからの脱水素反応を検討するため、千代田化工建設株式会社と共同で本事業を受託しました。具体的には、水素分離膜であるシリカ膜の一層の性能向上および長尺化を図るとともに、MCHからの脱水素・精製を行うメンブレンリアクターの開発を行ってきました。開発成果として得られた高性能化と長尺化したシリカ膜を用いたメンブレンリアクター検討において、MCHからの脱水素反応をモニタし、反応効率向上の確認を行ないました。基本的な原理を図2に示します。

 

          図2.単管メンブレンリアクタの概念

 

 水素分離膜と触媒を仕込んだ反応管を300℃まで昇温しMCHを供給すると、平衡反応によりトルエンと水素が生成しますが、水素のみが分離膜を通って、反応場から分離されます。反応場から生成物が取り除かれることで反応は水素生成物側に促進され、反応の転化率が向上します。それと同時に、分離膜を通過した水素は、トルエンを含まない高純度水素となるため、水素精製と反応効率の向上が同時に進行します。この現象を実スケールに近い状態で検証するため、500mmLのシリカ膜3本から構成される試験装置を設計製作し、その評価の結果、500mmLのシリカ膜を用いた場合でも顕著な転化率向上効果が確認され、平衡転化率の42.1%を大幅に上回る95%以上の転化率が得られることを実証しました。(図3)

 

   図3. メンブレンリアクタ-モジュール試験装置の運転結果

 

 メンブレンリアクターの実用化に向けてはモジュールのシールも課題の一つです。メンブレンリアクターでは、金属製の反応管にセラミクス製の無機膜を気密接合するためにOリング等のゴムによるシールをしていましたが、反応場は高温・高圧でMCHやトルエンの有機溶剤に晒されるため耐性に課題があることが分かりました。また、従来のメンブレンリアクターは膜一本毎に独立した反応器を持つ複雑な構造であり、製造やメンテナンスの作業工数が多いといった課題があったため、反応管への取付け、取外しが容易な多管を一体化する構造を検討し、図4のようなモジュールを試作しました。

 

  図4. 金属+-セラミックスの気密接合によるモジュール

 

 1次試作モジュールは、膨張係数が異なる金属-セラミクス間の接合にガラスを用い、3本の膜を束ねたモジュールであり、300℃、500kPa-Gでの気密を確認しました。一方、更に本数を増やすとなると金属管が太くなりフェルールによる締結が困難になる課題が判明したため、2次試作モジュールでは平板金属と膜6本を接合し、形状をフランジ構造とすることで気密性を保ち、容易に取外しできる構造を実現しました。この2次試作モジュールを図5のような試験装置に組込み、MCHの吸熱反応に対応する伝熱構造の改良効果を評価した結果を図6に示します。平衡転化率を上回る転化率を得たことに加え、フィンを反応管内部に設置することで反応により失われる熱を外部から効率的に供給することで、転化率が更に向上する結果を得ました。

 

   図5.メンブレンリアクターモジュール試験装置外観

 

       図6.モジュール評価結果

 

 耐久性に関しては、単管メンブレンリアクターを用い1,500時間の耐久性試験を実施しました。試験結果を図7に示します。初期にトルエンの膜面付着による若干の水素透過率の低下があるものの、安定した運転が可能であり、外挿より1.5万時間後の転化率低下は2割程度と予測され、実用的な耐久性があることを見通しました。

 

図7.単管メンブレンリアクターの耐久性試験

 

 以上の検討を通して、RITEでは、高性能シリカ膜を製膜し、それを用いたメンブレンリアクターで、MCHからコンパクトな装置で高効率に水素を製造できることを、ベンチスケールで実証しました。

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