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地球温暖化について考えよう 応用知識編

各種政策、制度の概要

温暖化問題への取り組みは、地球規模でかつ長期的な視点を持って実施しなければなりません。そして、温室効果ガスの大幅な排出削減が必要です。しかし、温暖化防止の必要性は全世界で広く認識を一にしつつも、その政策的な優先度、先進国と途上国などの責任分担などについて、世界各国の、そして、各人の価値観の違いが存在します。我々は、それを乗り越え、不衡平感をできる限り排除し、社会全体としての効用をできる限り高めることができるような枠組み、制度の導入を行うことが必要です。

これまで実施されてきた、あるいは提案されてきたどの政策・制度も一長一短を有しています。ここでは、今後の国際的、国内的な制度設計に向けての整理のために、RITEシステム研究グループが推奨するグローバルな機器別・セクター別原単位アプローチ(Top Runner & Beyond (TR & Beyond))の特徴も含めて、様々な国際的、国内的な政策、制度がどのような特徴を有しているかを、多面的に見てみます。


地域的なカバレッジと規制・自主的取組の視点から見た各種政策・制度

温暖化防止のためには、地球規模での取り組みが不可欠ですが、各種の政策・制度の中には、現実的な面から世界に広く合意されるのが難しいものも存在します。自主的な取り組みの場合、多くの参加が期待できる可能性もありますが、目標自体が甘くなる可能性があり、また、目標達成の期待度が小さくなります。一方、規制色が強い制度では、国際的な枠組みの場合、多くの国の参加を見込みにくくなります。また、多くの参加を得るために、目標自体を緩くせざるを得なくなることも考えられます。ただし、自主的な取り組みに比べ、目標達成の期待度は大きくなります。

なお、注意が必要なのは、例えば、国際単一/協調炭素税や国別キャップアンドトレード (C&T)です。これらは、もちろん、理論的には全世界をカバーし得ますが、現実的には、途上国などでは受け入れにくい特徴を有しており、現実面からは、必ずしも地域的なカバレッジは広くできないと言えます。


時間的なカバレッジと結果指向・行動指向の視点から見た各種政策・制度

温室効果ガス濃度の安定化のためには、息の長い取り組みが必要です。政策、制度には、短期的な排出削減に効果が期待できるものもあれば、長期的に大きな削減を期待できるものもあります。それらを適切に組み合わせなければ、温室効果ガス濃度の安定化を達成することはできません。
一方、排出削減行動に合意をする枠組みと、行動の結果としての排出量を合意する枠組みがあります。もちろん、行動の結果としての排出量の方が、温暖化防止に直接的ですが、その目標が、努力の度合いを反映しにくく、不衡平感が伴わざるを得ないものであるのであれば、行動に合意する枠組みも重要性を有してきます。


部門的なカバレッジと総量目標・原単位目標の視点から見た各種政策・制度

温暖化防止のためには、幅広い部門での削減が必要ですが、政策・制度には、通常、それぞれが適した対象部門が存在します。そのため、いずれか一つの制度ではなく、上手に組み合わせることが肝要です。一方、排出量自体を目標(総量目標)とするのか、CO2排出原単位やエネルギー原単位などの原単位を目標とするのかも、政策・制度によって異なります。総量目標の場合、排出総量の達成の期待度が高くなる一方、原単位目標の場合、制度設計時よりも実際の生産量や活動量が小さくなれば、排出総量は小さくなりますが、生産量や活動量が大きくなると、排出総量は制度設計時に予定したよりも大きくなってしまいます。

なお、この中で、注意が必要なのは、例えば、炭素税です。炭素税は、理論的には全部門をカバーしますが、現実的には、国際競争を行っている部門には減免措置がとられることが通常であり、必ずしも全部門を対象とした制度にならないと言えます。

図中の軸について
・原単位目標

GDPあたりや生産量、活動量あたりのCO2排出量、エネルギー消費量といった「原単位」を採用して、削減目標を設定する考え方。
原単位目標を達成できた場合でも、生産活動量などが予想以上に大きければCO2総排出量は予想よりも大きくなり、またその逆もある。

・総量目標

排出されるCO2総量を目標設定する考え方。原則として明確な環境効果(削減効果)を有するが、生産活動を抑制する効果も働くため、経済活動にネガティブな影響を及ぼすこともあり得る。


期待し得る環境効果(CO2削減効果)と経済的な影響

それでは、各種政策・制度において、期待し得るCO2削減効果と、予測される経済的な影響はどのようなものでしょうか。 例えば、国際単一・協調炭素税(環境税)や国別キャップアンドトレード(C&T)は、理論的には全世界に適用できれば、大きなCO2削減効果が期待できますが、現実的には、参加国が限定されてしまうと予想されます。一方、グローバルな機器別・セクター別原単位アプローチ(TR&Beyond)は、途上国も含めた幅広い国の参加が期待できるため、現実的には、最も大きなCO2削減効果が期待できます。しかも、躍動的な経済活動の維持も期待できます。


各制度、用語に関する概要説明

各制度について

  • トップランナー拡張方式 (Top Runner & Beyond (TR&Beyond) )
    機器別(自動車や家電機器など)・セクター別(発電、鉄鋼、セメント部門など産業部門別)原単位目標を世界レベルでプレッジアンドレビューする制度。各機器・セクター別の世界最高レベルのエネルギー効率やCO2原単位を基準に目標を設定しつつ、その基準を更に引き上げていく方式。
    (より詳細な内容についてはこちらを参照下さい。CO2排出削減枠組みTop Runner & Beyondの提案(PDFファイル274KB))
  • トップランナー方式 (Top Runners Approach)
    電気製品などの省エネ基準や自動車の燃費・排ガス基準を、市場に出ている機器の中で最高の効率のレベルに設定すること。日本では、「改正省エネ法」(1999年)において導入され、この基準に達していない製品を販売し続ける企業は、ペナルティーとして社名と対象製品を公表、罰金を科されることになった。また、電気製品がトップランナー方式による省エネ基準の達成度を製品・カタログに表示する「省エネラベリング制度」も設けられている。
    <(財)省エネルギーセンター【URL】http://www.eccj.or.jp/machinery/toprunner/
  • プレッジアンドレビュー (Pledge and Review)
    各主体者(国、事業者など)がそれぞれ目標をプレッジ(誓約)し(プレッジに対してレビューを行う場合もある)、それが達成されたかどうかや目標に向けた取り組み状況をレビュー(評価)する仕組み。
    例えば企業が公表している環境報告書は、企業(事業者)と社会とのプレッジアンドレビュー(誓約と評価)であり、この機能を生かすことで事業活動における環境配慮の取り組みを推進し、社会に対する説明責任を果たす役割を担っている。
  • セクター別アプローチ (Sectoral Approach)
    発電、鉄鋼、セメントなど産業部門(セクター)ごとにエネルギー効率などの向上に取り組むアプローチをいう。国境を越えて既存技術の普及を可能とし、特に途上国の技術ニーズが明確となる。また、各国の国情の違いなどを踏まえボトムアップ型で目標設定が可能である。
  • CAFÉ (Corporate Average fuel Economy:自動車平均燃費規制)
    米国における自動車燃費に関する規制で、自動車製造会社および輸入会社に対し、取扱車の平均燃費を一定レベル以上にすることを義務付けている。単位消費燃料当り(ガロン当り)走行距離で表示されている。現状、乗用車は27.5マイルで、小型トラックは20.7マイルである。
  • RPS制度 (Renewable Portfolio Standard)
    エネルギーの安定的かつ適切な供給を確保及び新エネルギー等の普及を目的に、電気事業者に対して、毎年その販売電力量に応じた一定割合以上の新エネルギー等から発電される電気の利用を義務付けた制度。日本では、RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)に基づくRPS制度が2003年4月から施行されている。
    電気事業者は、義務を履行するため、自ら「新エネルギー等電気」を発電供給する、もしくは他から「新エネルギー等電気」を購入して供給する、または「新エネルギー等電気相当量(法の規定に従い電気の利用に充てる、もしくは、基準利用量の減少に充てることができる量)」を取得することになる。電気事業者が、正当な理由なく義務を履行しない場合には、期限を定めて、義務を履行すべき旨の勧告、又は命令を行うことができる。この命令に違反した者は罰金に処される。
    <資源エネルギー庁【URL】http://www.rps.go.jp/RPS/new-contents/top/main.html
  • 経団連環境自主行動計画 (Voluntary Action Plan)
    自主的な取り組みにも様々なものがあり得るが、経団連による環境自主行動計画は、各産業(製造業・エネルギー多消費産業だけでなく、流通・運輸・建設・貿易・損保など)が現時点で最善と思われるぎりぎりの内容とし、多くの産業が数値目標を掲げている。そして、この行動計画は、毎年レビューし、結果を公表している。事実上はプレッジアンドレビューの一つと言える。
    なお自主行動計画は、日本では「公約」に近い意味で使っているのに対して、英語でvoluntaryを用いているように欧米では自主的には「何もしない」に等しいものと誤解されることもある。欧米からは理解されにくい面が多いが、大きな実績は上がっている。
    <経団連【URL】http://www.keidanren.or.jp/ japanese/policy/vape/index.html
  • 京都議定書 (Kyoto Protocol)
    気候変動枠組条約のCOP3(1997年、於:京都)で採択された気候変動枠組条約議定書。先進締約国に対し、2008~12年の第一約束期間における温室効果ガスの排出を1990年比で、5.2%(日本6%、アメリカ7%、EU8%など)削減することを義務付けている。また、削減数値目標を達成するために、京都メカニズム(柔軟性措置)を導入。国別キャップアンドトレードの仕組みになっている。
    <UNFCCC KP【URL】http://unfccc.int/kyoto_protocol/items/2830.php
  • 京都メカニズム (Kyoto Mechanism)
    京都議定書において定められたもので、海外で実施した温室効果ガスの排出削減量等を、自国の排出削減約束の達成に換算することができるとした柔軟性措置。京都メカニズムには、主として4つのしくみがあり、先進国で共同して省エネプロジェクトなどを実施し、そこで得られた温室効果ガスの削減量を取引する「共同実施(JI)」、先進国と途上国と共同でプロジェクトを実施し、そこで得られた温室効果ガスの削減量を先進国に移転する「クリーン開発メカニズム(CDM)」、各国が排出量の削減目標を達成するため、先進国間で排出枠を売買する「排出量取引」、先進国で植林などの活動によるCO2吸収プロジェクトの「吸収源活動」がある。
  • 排出権取引(=排出量取引) (Emissions Trading)
    環境汚染物質の排出量低減のための経済的手法のひとつ。国や企業などの排出主体間で排出する権利をあらかじめ設定し、権利を超過して排出する主体と権利を下回る主体との間でその権利の売買をすることをいう。
  • キャップアンドトレード (Cap and Trade( C&T ))
    温室効果ガスの総排出量(キャップ)をあらかじめ設定したうえで、個々の主体(国別や企業別)に排出枠を配分し、それぞれ割り当てられた排出枠の一部を取引(トレード)する仕組みで、排出権取引の一形態である。排出枠の配分には、過去の排出実績をもとに排出枠を交付する「グランドファザリング方式」、政府が排出枠を公開入札などで販売する「オークション方式」、将来達成可能なエネルギー効率改善を検討して割り当てる「ベンチマーク方式」のやり方がある。また、化石エネルギーの生産・輸入企業にキャップをかける「上流方式」と、化石エネルギーの利用企業にキャップをかける「下流方式」がある。「上流方式」の場合、事実上、炭素税に近い形態となる。一方、「下流方式」の場合、事実上、削減対象部門が産業部門などに限定される。
  • EUETS (EU Emissions Trading Scheme: EU 排出量取引制度)
    京都議定書上の約束をできるだけ小さい費用で経済的に効率よく達成することを目的として、EUETS指令に基づいて導入され(2003年)、2005年1月から実施されている。キャップアンドトレードを具体的に実現したものである。対象は、エネルギー生産、鉄生産、窯業製品生産、紙パルプ生産を行う施設で、対象ガスは当面はCO2だけである。制度発足の2005年から2007年までが第1期(試行期間)、2008年から2012年までが第2期とされる。EU加盟国は、国内の対象施設に排出量(allowanceと呼ばれる)を割り当てられ、この初期割当量を超過した場合、罰金額として超過量CO2-1トンあたり第1期は40ユーロ、第2期は100ユーロが設けられている。初期割当の公平性をめぐって、数百件の訴訟が起きているとの報告がある。
  • 環境税(=炭素税) (Carbon Tax)
    一般に、経済的手法で環境問題を解決するため、汚染排出がもたらす外部不経済を内部化する手法として導入される税を環境税という。温暖化問題で議論される環境税とは炭素税である。
    炭素税とは、石油・石炭・天然ガスなど化石燃料の燃焼に伴うCO2排出量に応じて課税し、CO2排出を抑制することを目的とする手法である。炭素税を導入している国はデンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、イギリス、ドイツ、イタリアである。

技術移転促進に関する取り組み関連

  • APP (Asia-Pacific Partnership for Clean Development and Climate:アジア太平洋パートナーシップ)
    クリーンで効率的な技術の開発・普及を通じた環境汚染、エネルギー安全保障、気候変動問題への対処を目的として、具体的に、省エネ、クリーン石炭技術、天然ガス、炭素隔離(CCS)、メタン回収、原子力発電、およびバイオ、水力等の再生可能エネルギー等の分野における地域協力の推進のために発足した。京都議定書を補完するものとの位置づけである。
    セクター別アプローチの国際的な枠組みの一つであり、また、現段階では必ずしも明確ではないが、プレッジアンドレビュー的な枠組みを指向しているように見られる。参加国は、米国、豪州、中国、インド、韓国、日本の6カ国である(2007年7月にカナダが加盟申請)。
    <APP【URL(日本語)】http://www.asiapacificpartnership.jp/

技術開発に関する取り組み関連

CO2回収・貯留技術分野
  • CSLF (Carbon Sequestration Leadership Forum:炭素隔離リーダーシップフォーラム)
    地球温暖化対策としての炭素隔離を国際的に広く有効性あるものにし,開発に関する技術的,政策的,法規制的課題を認識し、検討する目的で設立された。参加国は、米国、日本を含む21カ国とEC(欧州共同体)である。
    <CSLF【URL】http://www.cslforum.org/
水素・燃料電池技術分野
  • IPHE (International Partnership for Hydrogen Economy:水素経済のための国際パートナーシップ)
    水素・燃料電池に係る技術開発、基準・標準化、情報交換等を促進するための国際協力枠組として発足した。参加国は、米国、日本を含む16カ国とEC(欧州共同体)である。
    <IPHE【URL】http://www.iphe.net/
原子力技術分野
  • GNEP (Global Nuclear Energy Partnership:国際原子力パートナーシップ)
    米国が提唱した構想で、原子力発電拡大と不拡散の両立を目指した多国間の国際協力の枠組み。高速炉や中小型炉について協力を実施する。
    (高速炉:高速中性子を利用し、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めるとともに、放射性廃棄物の大幅な減少を実現する高速炉、中小型炉:途上国や島嶼国等における中小規模の発電需要等に対応可能なコンパクトな中小型炉。)
  • GIF (Generation IV International Forum:第4世代原子力システムに関する国際フォーラム)
    国際協力の下で高速炉等の第4世代原子力システムの研究開発を進めることを目的としたフォーラム。2000年より米国主導により検討を開始し、日本を含む12カ国1機関が参加。
    (第4世代原子炉(GEN-Ⅳ):燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、高い経済性の達成などを目標とする次世代原子炉の概念)

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