地球温暖化対策技術の分析・評価に関する国際連携事業(H29年度~R3年度)(通称:ALPSⅢ)
ALPSプロジェクト(ALternative Pathways toward Sustainable development and climate stabilization)
実施内容
本事業では、次の項目(1)~(5)について実施しました。(1)気候変動に関連した各種不確実性を指摘した上で、本事業で実施した定量的な分析も踏まえながら、気候変動リスクマネージメント戦略のあり方について議論を行い、とりまとめました。また、IPCC WG1およびWG2の最新の評価報告書の知見の概要についても整理しました。そして、気候変動対策におけるイノベーションの可能性についてまとめ、気候変動リスクマネージメントにおけるイノベーションの役割について論じました。(2)グリーン成長の限界を正しく認識しつつ、その機会を見出すために、世界主要国の消費ベースCO2排出量の推計を行いました。また、エネルギー価格変動に対する日本経済の耐性の評価、電力自由化の下での温暖化対策の動向等についての調査、グリーンファイナンスの動向と既往のモデル分析の調査・検討等を行いました。(3)中期的な緩和策の分析として、パリ協定NDCs(Nationally Determined Contributions)の排出削減目標(2030年頃)に関する分析・評価を行いました。各種制約に伴うNDCs達成の排出削減費用の上昇等について分析するとともに、国際競争力への影響についても評価を行いました。また、国境調整税に関する国際的な議論の動向を整理するとともに、モデル分析による試算も行いました。(4)長期の緩和シナリオ分析を実施しました。カーボンニュートラル実現のための各種技術の開発動向や国際的な最新の分析・評価について整理しました。また、温暖化対策モデルにおいて、エネルギー供給側および需要側双方について、2050年カーボンニュートラル実現の様々なシナリオを想定した分析を行いました。(5)最新の海外の気候変動に関する政策動向を調査しました。また、国際モデル比較プロジェクトの各種動向、国際エネルギー機関IEA等のシナリオについても調査しました。以下に実施項目(1)~(5)のそれぞれのポイントを記載します。
気候変動リスクマネージメントのあり方について検討を行いました。IPCC WG1の第6次評価報告書では、地球温暖化が人間の影響で起きていることは「疑う余地がない」と評価しました。IPCCによる気候変動の科学(WG1)と気候変動の影響・適応(WG2)に関する最新の評価について知見の整理を行いました。気温安定化のためには、その時点においてCO2排出をほぼゼロにする必要もあります。しかし一方で、気候変動の程度および影響被害の程度には大きな不確実性が存在します。緩和費用面に関してもパリ協定NDCsでも見られる限界削減費用の各国間での幅の大きさが指摘できます。また、一国内においても原子力等の社会的な利用制約や、エネルギー安全保障やその他政策との調和の必要性、また政治システム上の制約も考えられ、それらを踏まえると費用最小化時の緩和費用と比べかなり大きい費用が推計されることを指摘しました。また長期でも気温推計の不確実性や社会経済の不確実性等から、仮に2℃や1.5℃目標などを定めたとしても、気候変動緩和コストの不確実性もかなり大きいと見られます(これらの具体的な評価は項目(4)で実施)。更に気候変動枠組みの政治的な安定性という課題も存在しています。そのような中、様々なリスク要因を踏まえた上で、気候変動対策に関するより良い意思決定が求められます。また総合的に気候変動リスクを減じるためには、気候変動への適応も重要な対策と考えられます。気候変動影響・適応策の経済影響・経済効果やイノベーションとそれを誘発し得る政策についても言及しつつ、気候変動リスクマネージメントのあり方について整理を行いました。
グリーン成長の限界と可能性について、できる限り、データ、定量的な分析に基づきながら検討を行いました。日本政府は、「環境と経済の好循環」を掲げています。しかしながら、その道筋は、現時点で明確にあるわけではなく、狭いパスとも考えられます。
経済とCO2排出のデカップリングの状況などについて、定量的なデータ収集と分析を行い、その要因も含めて検討を行いました。最新データに基づき、日本における製品等に体化された間接的な電力輸入の推計も実施しました。また、エネルギー価格変動に対する日本経済の耐性についての評価も実施しました。更に、日本の産業界が取り組んでいる低炭素社会実行計画の実績について、グリーン成長の視点を含め、排出削減努力についての一次的な試算も行いました。
その他、欧州や日本などにおける再生可能エネルギー導入状況とその課題について調査を行いました。また、電力自由化の下で温暖化対策を進めるにあたっての課題等についてまとめました。更には、グリーンファイナンスの動向とこれまでのモデル分析例についてその内容と課題について整理を行いました。気候変動政策に伴う費用負担の格差拡大の課題についても調査・検討を行いました。
パリ協定NDCsの排出削減目標(2030年頃)に関する分析・評価を行いました。パリ協定では、プレッジ・アンド・レビューの仕組みとなっており、NDCsの国際的なレビューが重要となります。パリ協定採択の2015年以降、COVID-19の影響を含め国際的な経済の見通しも変化してきています。また、先述のように、先進国を中心に多くの国がNDCの2030年の排出削減目標の深堀を行いました。そこで、本研究では最新の動向をふまえ、排出削減費用を含む、複数の指標を採用し、各国NDCsの排出削減努力の国際比較を実施しました。また、日本の新たな2030年の排出削減目標-46%について、その経済影響についても分析・評価を行いました。日本の排出削減目標実現には、大きな排出削減費用と経済影響が推計されました。なお、国際的なNDCs評価の文献についても整理を行いました。 更には、欧州では炭素国境調整税導入の具体的な検討が進められてきています。そこで、関連動向と既往モデル分析事例の調査を行うとともに、世界エネルギー経済評価モデルを拡張して、2030年のNDCsの下での炭素国境調整税導入の影響に関する試算を行いました。また、海外のモデルでも分析を行い、比較・評価を行いました。炭素国境調整税は、炭素リーケージに一定の効果は有すると推計されるものの、効果は限定的とも見られ、原則的にはCO2限界削減費用の差異が国間で大きくなりすぎないよう、排出削減目標の調整が重要と見られます。
長期の温暖化対策・政策の総合的な分析を行いました。先述のように、日本政府を含む、世界の多くの国が、2050年にカーボンニュートラルを目標に掲げました。このような状況を踏まえ、世界エネルギー・温暖化対策評価モデルDNE21+において、エネルギー供給側および需要側双方のエネルギーシステムの分析を行いました。特に、日本の2050年カーボンニュートラル目標については、本事業で実施したシナリオ分析を、第6次エネルギー基本計画の議論を行った、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会に提供し、カーボンニュートラル実現のための方向性の議論に貢献しました。
具体的には、エネルギー供給サイドについては、カーボンニュートラル実現において、より一層重要性が増すと考えられる、水素や水素系燃料である、アンモニア、合成燃料(合成メタン、合成液体燃料)の技術調査、各種の経済性評価に関する調査を行いました。また、大気中からの直接CO2回収・貯留(DACCS)などの二酸化炭素除去技術(CDR)についても技術調査、各種の経済性評価に関する調査を行いました。これらの調査は、DNE21+モデルによる2050年カーボンニュートラル分析においても反映した他、その可能性についての感度解析も実施しました。
エネルギー需要サイドについては、IoT、AI技術等による低エネルギー需要実現の可能性について、完全自動運転車実現によるカーシェアリング・ライドシェアリング誘発の影響の評価や食料システムにおける食料廃棄の低減の可能性とその影響評価、アパレルの動向とアパレル分野における製品に体化されたエネルギーを含む、エネルギー低減、CO2排出量低減の可能性と課題などについて調査し、整理を行いました。さらには、消費行動を包括的に評価するため、COVID-19による生活行動の変化について調査しました。そして、デジタル化等の技術変化や社会変化が、生活行動にどのような影響を与え、エネルギー需要にどのような変化をもたらし得るのかについて検討や、技術普及における「隠れた費用」の推計についての調査等を行いました。これらによって、リバウンド効果を含む、行動変化を総合的に捉えて、将来のエネルギー需要の見通しを得る分析手法の今後の発展に資するものと考えられます。
また、持続可能な発展と気候変動対策との調和という視点から、土地利用、食料需給との関係性についても分析を行いました。
カーボンニュートラルに関する国際的なシナリオ分析の動向を調査するとともに、国際モデル比較プロジェクトの動向を整理しました。国際エネルギー機関(IEA)は、2021年5月に、Net Zero by 2050において世界の2050年カーボンニュートラル(NZE)シナリオを発表し、また2021年10月に発表した世界エネルギー展望WEO2021でも、他のシナリオとともにNZEシナリオのより詳細な解説を行いました。本事業では、これらシナリオについても概要をとりまとめるとともに、DNE21+によるシナリオとの比較評価についてもとりまとめました。国際モデルプロジェクトとしては、欧州委員会が研究資金を提供しIIASAが主宰するパリ協定目標を技術的、社会的、政治的に達成可能な排出削減経路を分析・評価するENGAGE (Exploring National and Global Actions to reduce Greenhouse gas Emissions) プロジェクトの動向について調査しました。