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研究内容(プロジェクト)

「国際産業経済の方向を含めた地球温暖化影響・対策技術の総合評価」(通称:PHOENIX)

「国際産業経済の方向を含めた地球温暖化影響・対策技術の総合評価」(PHOENIX)の研究目的と背景

研究目的
  • 1992年に締結された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第2条では、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極的な目的」としています。しかしながら、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)をはじめ様々な研究において、この危険な人為的干渉(DAI)がどの濃度安定化レベルに相当するのかの議論がなされているものの、多くのコンセンサスを得たレベルは示されていません。そして、同じくUNFCCC第2条においては、「そのような水準は、生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような期間内に達成されるべき」としており、地球環境の影響と温暖化の対策コストを踏まえて濃度安定化レベルが定められるべきです。しかしながら、現在の気候科学においても、また、その地球環境への影響についても、そして温暖化対策についても、数多くの不確定性が存在します。例えば、大気中の温室効果ガス濃度が倍増したときの気温上昇は未だ大きな不確実性の幅を有しています。更に、近年では温暖化による海洋の循環の停止や西部南極氷床の融解、グリーンランド氷床の崩壊など、大規模かつ非可逆的な事象の危険性も議論に上るようになっています。このような大きな不確定性が存在する中で、人類にとって妥当と考えられる濃度安定化レベルを定めることは当然極めて困難な問題です。しかし、地球温暖化の進行が人類の発展の大きな障害となる危険が予想される以上、長期的かつ全地球的視野で、将来の不確実性を念頭におきつつ、合理的な思考に基づき、対策を打ちたてなければなりません。
  • そこで、「国際産業経済の方向を含めた地球温暖化影響・対策技術の総合評価」(PHOENIX:Pathways toward Harmony Of Environment, Natural resources and Industry compleX)では、最新の科学的知見を基に、1)それぞれの濃度安定化レベルが自然環境および人間社会に対してどのような影響をもたらすのか、その前提となる社会・経済構造の変化が世界の各主体にどのような費用と便益をもたらすのかを定量的に把握し、2)過去の諸提案と比較しつつ、濃度安定化レベルを定めるための合理的な考え方を提言し、3)これらに基づき、今後の地球温暖化対応戦略を提示することを目的としています。
  • なお、このような分析を進めるには、国際的な他の研究機関との連携が欠かせません。PHOENIXでは、人口推定、温暖化対策評価、技術変化のモデル評価、土地利用変化に関する研究など、システム分析の分野に関する世界的研究拠点のひとつである国際応用システム解析研究所(IIASA)と密接な連携を行いながら、情報交換と共同作業を進めています。
背景
気候変動枠組条約
  • 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、全世界が協力して地球温暖化問題に取り組むため、1992年に採択され、1994年に発効したものであり、国連加盟国のほとんどが加盟しています。
  • そして、条約の目的をうたっている第2条では、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極的な目的」としています。なお、「そのような水準は、生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような期間内に達成されるべき」としています。
  • しかし、「危険な人為的干渉(DAI: Dangerous Anthropogenic Interference)」とは具体的にどの程度のレベルなのか、DAIを避けることができる大気中の温室効果ガスの濃度安定化レベルとはいかなるレベルなのか、は明記されていません。
  • 長期的な具体的な数値目標がある方が、短期的な排出削減の数値目標も設定しやすくなるため、常に、このレベルがどこにあるのかの議論がなされています。
  • なお、条約の第3条原則においては、
    • -各国は衡平の原則や共通だが差異ある責任と能力に従い、現在および将来世代の便益のために気候システムを保護
    • -気候変動に対して脆弱な国に充分配慮すべき
    • -予防的措置と悪影響の緩和が必要、深刻な/回復不可能な損害の脅威に対しては、完全な知識の欠如を予防措置遅延の理由にしてはならない
    • -温暖化の対策・措置はコスト効果的であるべき
    • -各国は持続可能な開発の権利・責務を有する。気候変動の対策措置を講ずるにあたり経済開発は不可欠

と述べており、これらにも配慮して、究極目標が議論されなければなりません。

「究極目標」に関する科学的な研究事例
  • 危険な閾値(DAI)に関する研究

各種温暖化影響事象が、どのレベルで危険な状態となるのかを調査・評価し、究極目標のレベルを模索しようとする研究努力がなされています。主なものとして、下記のような研究があります。

IPCC 第3次評価報告書

-B. Hareらによる研究(例えば、"Assessment of Knowledge on Impacts of Climate Change - Contribution ot the Specification of Art.2 of the UNFCCC"(pdfファイル 1709KB))

STERN Review

しかし一方で、DAIは科学的には決定できないということも、多くの合意もあります。

危険な閾値(DAI)に関する研究

  • 費用便益分析(CBA)

温暖化影響によるダメージをすべて金銭換算できれば、対策コストとの和が最小化されるレベルに排出を抑制するのが最も効率的な対応となります。代表的な研究例としては、
-W. Nordhausらによる研究(例えば、"Warming the World")
が挙げられます。また、先のSTERN Reviewではこの方式にも触れています。しかしながら、
-すべての温暖化影響事象を金銭換算しなければならず、種の多様性など、金銭的な価値として適切に表現できるか否かの問題
-一般的に温暖化影響は、途上国など脆弱な地域に大きく現れますが、それを世界全体で統合して評価することが適切か否かの問題
-温暖化は長期に亘る問題であり、世代間の公平性が問題になります。一般的には割引率といった便宜的なパラメータを用いて時点間の統合を行いますが、それが適切かどうかの問題
のような問題点が指摘されています。

費用便益分析

出典)IPCC第2次評価報告書

欧州共同体(EU)が主張する目標

EUは、究極目標に関して、最近では以下のような政治的な決定をしています。それでは、日本やこの他の国々は、世界や自国の将来にわたる幸福のために、どういった目標を指向していくべきでしょうか。PHOENIXは、より良い考え方・指針の提供を目指しています。

  • 欧州環境相理事会決定(2005年3月):気候変動枠組条約の究極目標を達成するため、全球年平均気温の上昇幅が、産業革命以前のレベルに比べて2℃を超えてはならないことを再確認する。このためには、最近のIPCCでの研究によると、550ppm(二酸化炭素換算)をはるかに下回る濃度での安定化が必要である。
  • 欧州理事会決定(2005年3月):気候変動枠組条約の究極目標を達成するため、全球年平均気温の上昇幅が、産業革命以前のレベルに比べて2℃を超えてはならないことを再確認する。

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