地球温暖化対策技術の技術評価に関する研究
研究概要
温暖化対策技術の重要度評価
地球温暖化対策技術の重要度評価を合理的に行うために、ある想定条件下で将来の最適な導入量とそのときのエネルギー供給構成を求めて総システムコスト、燃料消費量、二酸化炭素(CO2)排出量等を算出するためのツールを開発しました。開発したツールは、日本国内における各種の大規模発電技術や分散型発電技術、火力発電所からのCO2回収技術および各種自動車技術の導入量を内生的に取り扱うことのできるような逐次最適化型の線形計画モデルです。ここでは、開発モデルの概要と、モデルを用いて実施した重要度評価の結果について示します。
開発モデルの基本構造と評価対象技術
本研究では、日本の将来における、ある想定条件下での種々の地球温暖化対策技術の最適導入量やエネルギー供給構成・CO2排出構成等を計算するための線形計画モデルを開発しました。本モデルでは、発電部門の技術、火力発電所からのCO2回収技術、運輸部門における各種自動車技術および大規模電力貯蔵技術を評価対象としています。
開発したモデルの枠組みはこちらをご覧下さい。
本モデルでは、発電部門における各種の集中型発電技術(石炭火力発電、石炭ガス化複合発電(IGCC)など)、CO2回収技術や電力貯蔵技術、民生部門における各種の分散型発電技術(太陽光発電、熱併給可能なガスタービンなど)と熱供給技術、および運輸部門における各種の自動車技術を、現状および将来における導入量(導入容量、運転量)の推計対象としています。推計にあたっては、民生部門での照明等動力、温熱および冷熱の各需要(住宅、店舗等の5タイプ別)、自動車輸送需要(自家用乗用、営業用乗用等の5用途別)、および産業部門全体(自動車輸送を除く運輸部門を含む)の電力需要を外生条件として与え、各評価対象時点においてこれら需要を満足し、かつ、総システムコストすなわち各技術の固定費(設備費等)および変動費(燃料費等)の総和が最小となるような各技術の導入量を計算します。
モデル前提条件と計算ケースの想定
開発したモデルで取り扱う各種技術の特性・コスト(価格)、将来のエネルギー需要および燃料価格の基準値は、こちらをご覧下さい。
ここでは、以下のように計算ケースを想定しています(以下「基準ケース」と表記)。
- 基準時点である1998年の電力供給側における各種発電システムの発電量については、実績値と合致するように設定。
- 原子力発電および水力・揚水水力発電については、将来の設備容量を外生的に与えています。すなわち、これら発電技術については既存の建設予定に従って建設されるのに伴って設備容量が増大するとし、設備容量の伸びが止まった時点以降は、設備容量が一定になる(リプレースの建設のみ行われる)ものとしています。
- CO2排出量制約として、モデルの対象範囲である発電・民生および自動車部門における正味CO2排出総量が、基準時点(1998年)以降、2030年まで一律1%/年で削減する場合を想定しています。
計算結果
各種発電技術(CO2回収付きや分散電源を含む)の設備容量および発電電力量の計算結果は図1を、民生部門における熱(温熱/冷熱)供給技術の導入量は図2を、自動車技術の導入量については図3をご覧下さい。
図1 各種発電技術(CO2回収付きや分散電源を含む)の導入量の計算結果(基準ケース:基準年以降、CO2排出量を1%/年で低減させるケース。2010年以前の新設設備容量は、第137回までの電調審に基づく。エネルギー需要と価格、原子力・水力発電の容量は外生的に与えています。) 分散電源である高効率の溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)と固体電解質形燃料電池(SOFC)が35~36万円/kWで2020年頃から導入可能であるとの想定の下で大幅に普及し、2025年頃からはIGCCのうちで最も比較的高効率のIGCC-50%とIGCC-55%が導入されます。CO2回収技術については、2020年には石炭火力および加圧流動床複合発電(PFBC)へのCO2回収装置の付設がなされる上、IGCC技術の実現に伴って2025年以降にはCO2回収装置付きのIGCCが導入されます。
図2 民生部門における熱供給技術の導入量の計算結果(基準ケース:基準年以降、CO2排出量を1%/年で低減させるケース。エネルギー需要は外生的に与えています。排熱ボイラ・ヒーター、温水/蒸気吸収式冷凍機の駆動源は、分散型のガスタービンや燃料電池の排熱である。) 温熱供給については、将来は冷暖兼用電動ヒートポンプによって大部分が賄われるほか、分散型燃料電池の普及に伴って燃料電池排熱を利用した排熱ボイラ・ヒーターによる熱供給が相当量行われます。冷熱供給においても、燃料電池排熱を利用する蒸気吸収式冷凍機が、将来大幅に稼働されます。
図3 自動車技術の導入量の計算結果(1998年以降、CO2排出量を1%/年で低減させる場合。輸送需要量と、自動車の固定費・燃料単価は外生的に与えており、ここでは水素価格をガソリンの2.85倍に設定したため(従来型ガソリン自動車の走行距離あたり燃料価格と等価になると仮定し、想定燃費の比率からガソリン価格の2.85倍としています)、単純な経済原理では水素車載型燃料電池自動車は導入されないと計算されます。)
従来型のガソリン車やディーゼル車が2010年までには省エネルギー型自動車(改正省エネルギー法に基づく燃費改善がなされた自動車)に代替されるが、それ以外の新技術は想定条件の下では殆ど導入されず、2025年頃以降にガソリン車上改質型燃料電池自動車が若干導入される程度にとどまります。