地球温暖化対策技術の技術評価に関する研究
研究概要
温暖化対策技術の技術開発時期に関する評価
技術開発プロセス分析評価システムは、地球温暖化対策・エネルギー関連技術を開発する際の開発の見通しを得るとともに、複数の開発課題のうち、どの開発課題を解決することが、評価対象の地球温暖化対策技術の開発にとって効率的なのか、また、どの開発課題に重点的に資金配分することが効率的なのか、という研究開発戦略を評価できます。
技術開発プロセス分析評価システムの概要
ある地球温暖化対策・エネルギー関連技術の開発プロセスを、それを構成する要素技術分解を行ってモデル化するとともに、その要素技術の開発時間をモデル化します。その際、GERT(Graphical Evaluation and Review Technique)ロジックに従ってモデル化します。要素技術の開発時間の不確実性(アンケート調査回答の分散)を離散的な確率密度分布として表現し、GERTの計算ロジックに沿ったシミュレーション的な計算によって、評価対象技術の開発時間の確率密度分布を算出します。
モデル分析評価の対象としたエネルギー・温暖化対策技術
次のような地球温暖化対策・エネルギー関連技術について、その技術開発過程をGRET手法に基づいてモデル化し、各技術に関する専門家へのアンケート調査を実施して、そのデータに基づいてモデルシミュレーションを行いました。
(1)先進複合発電技術
- 1700度級ガスタービン利用のLNG複合発電技術(LNGCC)
- 高温形燃料電池(溶融炭酸塩形燃料電池と固体電解質形燃料電池)利用のLNG(分散型の場合は都市ガス)複合発電技術(LNG-FC)
- 石炭ガス化複合発電技術(IGCC)
- 石炭ガス化燃料電池複合発電技術(IGFC)
(2)CO2分離・回収技術
- 排ガスからの化学吸収技術
- 排ガスからの物理吸着による回収技術
- 排ガスからの膜分離による回収技術
- O2/CO2再循環燃焼ボイラによる回収技術
- 水素分離型ガスタービンによる回収技術
(3)超電導電力応用技術
- 超電導発電機
- 超電導変圧器
- 超電導直流・交流ケーブル
- 超電導電力貯蔵装置
- 超電導フライホイール
- 定置用システム
- 自動車システム
計算結果例
GERT手法による「技術開発プロセス分析評価システム」で計算した計算結果例として、発電効率55%(低位発熱量基準)の石炭ガス化複合発電(IGCC)について、開発完了時期の見通しの確率分布を図1に、要素技術別の開発時間短縮によるIGCCの開発期間短縮効果と投資額による時間短縮効果を表1に示します(2000年に実施した専門家へのアンケート調査が計算の基になっています)。
図1 発電効率55%の石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発完了時期の見通しの確率分布
表1 発電効率55%(低位発熱量基準)の石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発における要素技術別の開発時間短縮によるIGCCの開発期間短縮効果と投資額による開発期間短縮効果。
本結果からは、IGCC-55%の技術開発期間短縮には、空気吹き石炭ガス化技術への追加的投資が効果的であると見られます。
要素技術名 | 発電技術の開発時間短縮効果 | |
要素技術の単位平均短縮時間当たりの短縮効果(年/年) | 要素技術の開発費10億円増額による短縮効果(年/10億円) | |
IGCC-55%の付加的な統合化技術 | 1.00 | 0.38 |
空気吹き石炭ガス化技術 | 0.82 | 0.67 |
IGCCの要素技術統合化共通技術 | 0.80 | 0.07 |
燃焼器の触媒燃焼技術 | 0.03 | 0.04 |
乾式脱硫技術 | 0.03 | 0.02 |
耐熱材料による低NOx燃焼器技術(石炭ガス化ガス用) | 0.02 | 0.03 |
酸化物分散強化(ODS)合金によるガスタービン動翼材料技術 | 0.01 | 0.01 |
金属間化合物(IMC)によるガスタービン動翼材料技術 | 0.01 | 0.01 |
セラミックス基複合材料(CMC)によるガスタービン動翼材料技術 | 0.01 | 0.01 |
カーボン・カーボン複合材料(C/C)によるガスタービン動翼材料技術 | 0.01 | 0.01 |
一方向凝固酸化物共晶複合材料(MGC)によるガスタービン動翼材料技術 | 0.01 | 0.01 |
その他の計算結果については、報告書をご覧下さい。
得られた結果の考察について
得られた結果に基づいて、例えば次のように評価・考察することが考えられます。
(1)存在する技術開発スケジュールとの比較に基づく考察
ある技術開発スケジュールが存在していても、20年前後に及ぶ長期的な技術開発においては、通常、大雑把なものとなりがちです。そこで、「技術開発プロセス分析評価システム」によって得られた分析結果とのつきあわせによってスケジュールを明確化できます。
(2)要素技術開発への投資配分に関する考察
例えば、「技術重要度評価システム」において、ある地球温暖化対策・エネルギー関連技術がいつからでも利用可能として計算した結果、2010年から導入される結果となったとします。一方、多くの専門家の見通しを基にした「技術開発プロセス分析評価システム」からは、2015年程度に開発可能であると算出されたとする。その場合、開発期間短縮のために、どの要素技術の技術開発がボトルネックとなりそうなのかを明示することができ、注力すべき技術開発過程の指針を得られます。
(3)代替関係にある要素技術の開発に関する絞り込みの考察
代替関係にある要素技術の開発が数多く実施されている状況にあるが、このまま数多くの技術を同時に開発すべきか、もしくは、技術を絞り込むべきかに関しては、もし、代替関係にある要素技術の開発期間推定値の差が大きければ、「技術開発プロセス分析評価システム」において、"OR"で表現した代替関係を例えば2種類のみの代替関係に変更して分析し、地球温暖化対策・エネルギー関連技術の技術開発完了時期や成功確率を比較評価します。数多くの複数技術の代替を想定した場合との差があまり大きくなければ、それら2種類程度の要素技術開発に絞り込むことは妥当な戦略と考えられます。