二酸化炭素地中貯留に関するシステム研究
「地中貯留に関するシステム研究」の概要
法的側面の調査
日本において、海域帯水層にてCO2地中貯留を実施する場合、法律上どのような国内法・国際法が適用されるかは現時点では明確ではありません。これは国際的な課題でもあります。そこで、日本国内でCO2回収から地中貯留までの一連の工程を大規模事業として想定した場合、どのような関連法があるのか抽出と整理を行いました。
想定した一連の工程とは、CO2大規模固定発生源(火力発電所など)から排出されるCO2を発電所敷地内で分離・回収(モノエタノールアミン(MEA)法などを利用)・貯蔵を行い、陸上および海底のCO2長距離パイプライン輸送と、液化CO2タンカー船による海上輸送を行い、国内の海域帯水層に貯留するとしました。これらの想定工程に係る主な法律を以下に示します。(「図.CO2地中貯留工程に係る主な法律」はこちらをご覧下さい)
排出CO2
CO2が「温室効果ガス」である、と定めた国内法に「地球温暖化対策の推進に関する法律」(地球温暖化対策推進法)があります。1997年開催の「気候変動枠組条約」第3回締約国会議(COP3)の経過を踏まえ、1998年に我が国で制定された法律です。CO2による地球温暖化が、世界人類の共通問題となっていることを確認し、温室効果ガス抑制のために、国・地方公共団体・事業者・国民それぞれに責務があり、対策の措置を講ずることや施策の推進等に努めること、また協力すること等を定めています。
CO2分離・回収
CO2を分離・回収する際に最も関連する法律は、CO2の取り扱いについて規定をしている「高圧ガス保安法」と考えられます。高圧ガス製造・製造設備、一時的な貯蔵所設備などの細部が本法で規定されています。
CO2輸送
陸上パイプラインは「高圧ガス保安法」による規定のほか、土地利用についての法律が関連します。パイプラインを設置する場所によって、例えば安全面や環境保全などに関する制限を設けた土地利用の関連法があげられます。
海底パイプラインについては、「国連海洋法条約」(海洋法に関する国際連合条約)で敷設の自由を定められています。200海里排他的経済水域(EEZ: Exclusive Economic Zone)においても、沿岸国の自由はもちろんのこと、他国が海底パイプラインを敷設する自由も、沿岸国の権利に抵触しない限り認められています。
一般にタンカー船による輸送は、「船舶安全法」の製造規則を遵守して製造されたタンカーを施設した船舶が必要となります。その他、港の利用に際しては「港則法」や「港湾法」が係り、航行については基本的な海上交通ルールを定めた「海上衝突予防法」などが係ります。
CO2地中貯留
CO2地中貯留の実施サイトを領海あるいは排他的経済水域(EEZ)内外のどこで行うかによって、「国連海洋法」および、本条約に対応する国内法である「領海及び接続水域に関する法律」、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」等、海洋・海底の利用に関する権利を規定した法律が関連します。なお、「国連海洋法」は海の憲法とも言われ、他の関連条約等を遵守することも求めています。
ロンドン条約(「1972年の廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」)は関連する条約の一つで、廃棄物等の海洋投棄に対する規制をしています。本条約は1996年の締約国会議において「1972年の廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書」と称する議定書への大きな改正があり、近年中に発効される見通しとなっています。
CO2貯留・隔離技術は新しい技術であり、本条約および議定書作成当時は想定外であったことから、現時点ではCO2貯留・隔離の扱いは明確化されていません。よって、海域帯水層へのCO2地中貯留をどのように法的解釈すべきかは国際的な課題と考えられています。最近では英国が先導してこの課題に前向きに取り組みつつあります。
環境影響評価
「環境影響評価法」は、事業実施が環境に及ぼす影響について 事前評価を行うことを定めた法律でありますが、現行法の規定において、CO2地中貯留は対象事業として 明記されていません。一方、社会的受容の観点からは、住民参加の手続の一つとして重要な役割を 担う可能性があるため、別途調査を行っています。
まとめ
CO2地中貯留について、直接言及した国内法・国際法はないといえます。 新しい技術であり、今までに論議されることがなかったことが理由の一つであり、今後、国際的に協調しつつ、 法的側面からも判断をしていく必要があると考えられます。